「By people」から「By children」へ|保育園・幼稚園の園庭づくりと施設経営

For Nursery & Kindergarten Teachers

監修:株式会社アトリエ アムニー代表取締役 飯沼伸久(1級造園施工管理技士・ビオトープ施工管理士 在籍/2008年創業) 

園庭は、誰のものか。
「By people」から「By children」へ〜

廃材や自然素材を組み合わせた、子ども自身が遊びを創造できる余白のある園庭・遊び場のイメージ 岩や地形の起伏を活かした、自然の造形に近いクライミング遊具。既製の遊具ではなく地形そのものを遊びの余白としてデザインする例

ランドスケープデザイナー・高野文彰氏が生涯をかけて向き合った「against, for, with, by」という公共空間の思想。この「By people(市民による)」という言葉を、幼児教育の現場に置き換えるなら「By children(子ども自身による)」という一語に集約されます。

園庭は、ただ体を動かすための場所ではありません。その園がどんな保育を大切にしているか、いちばん素直に映し出す場所です。高野氏が試行錯誤の末にたどり着いたランドスケープの哲学は、「子どもが自ら考え、自ら育つ力」を大切にしたい今の保育にとって、静かに寄り添ってくれるヒントになります。

公園づくりには、造形に劣らず大切なことがある——それは、空間の主導権を大人(For)から子ども(By)へと手渡すことです。

本コラムでは、「For children」の限界、専門家による「質の高い余白」のデザイン、そして園庭づくりをみんなで育てていく意義について、園長先生や保育者の方に向けて、ゆっくりと考えてみたいと思います。

Chapter 01

「For children(子どものために)」の限界に気づく

多くの幼児施設が良かれと思って導入する、色鮮やかな複合遊具や平坦で安全なゴムチップの地面。これらは、大人が「子どもはこう遊ぶだろう」と規定し、安全と管理のしやすさを優先して与えた「For children(子どものためのお膳立て)」の空間です。しかし、遊び方が1つか2つに限定された遊具は、すぐに子どもたちを飽きさせます。

🛝 遊び方が固定された遊具

複合遊具は「滑る」「登る」など、あらかじめ決められた遊び方しか提供しません。数ヶ月も経てば子どもたちにとって目新しさはなくなり、飽きの対象になってしまいます。

⚠️ 危険な遊び方への逸脱

飽きた子どもたちは、遊具を本来の使い方とは違う形で使い始めます。手すりを逆走する、高い場所から飛び降りるなど、想定外の危険な遊び方が生まれやすくなります。

🚫 「Against children」への転落

大人は「危ないからやめなさい」と禁止するほかなくなります。これは結果的に、子ども本来の遊びを排除する「Against children」の空間へと陥ってしまうジレンマです。

高野氏がアメリカの『ピープルズ・パーク』の事例から「公園づくりには造形に劣らず大切なことがある」と気づいたように、幼児施設の園庭においても「完成された遊具を置くこと」以上に大切なプロセスがあります。それは、空間の主導権を大人(For)から子ども(By)へと手渡すことです。

Chapter 03

園庭づくりを「プロセス」として共有する

園庭ができあがるまでの時間そのものが、実は子どもたちや先生方、保護者の方にとって、かけがえのない機会になります。高野氏が住民参加のワークショップを通じて、参加者が共通の体験を通して意見を交わし、考えを分かち合っていくプロセスを大切にしたように、園庭づくりも業者に任せきりにして完成を待つだけのものではありません。

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PROCESS 01

先生方の気づきにつながる時間

計画の段階から保育士が加わることで、「管理しやすい園庭」から「子どもが育つ園庭」へと、保育に対する眼差しが少しずつ変わっていきます。園庭づくりは、先生方にとっても学びの時間になります。

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PROCESS 02

保護者や地域の方と分かち合う

芝生の植え付けや、小道の石並べなどに子どもや保護者の方が参加する「ものづくりの時間」を取り入れてみる。それだけで「与えられた園」から「自分たちも関わった園」へと、園への親しみが自然と深まっていきます。

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PROCESS 03

完成しない園庭

園庭は竣工した日が完成ではありません。子どもたちが遊びの中で穴を掘り、道を作り、植物が育つことで、毎年風景が変わっていく「生きた空間」です。

Conclusion

おわりに——子どもたちに残していきたいもの

「By children(子ども自身による)」の園庭づくりは、既製品の遊具をそろえるよりも、時間も手間もかかるかもしれません。それでも、高野氏が「できたものが素晴しいものでなければ、たとえ住民参加で造られたものであっても意味がない」と考え、質の高いデザインを求め続けたように、プロの設計者と一緒に「本物の自然と、遊びの余白」を育てていくことは、その園にしかない、かけがえのない風景をつくっていくことにつながります。

子どもたちの育ちへ

自分で考え、自分で選ぶ力という、これからの子どもたちに大切にしていきたい育ちを、園庭という日々の環境がそっと支えてくれます。

その園らしさへ

既製品では叶わない「本物の自然」がある園庭は、他にはないその園ならではの風景となり、保護者の方にも自然と伝わっていきます。

みんなの心のつながりへ

先生方や保護者、地域の方が一緒に関わっていくプロセスそのものが、園への愛着と安心を育み、長く選ばれ続ける園の土台になっていきます。

おわりに ── 「By children」という、いちばん大切な贈りもの

子どもたちが自分で遊びを見つけ出し、目を輝かせて泥だらけになる姿。それをそっと見守り、共に育っていく保育者たち。「By children」の考え方を取り入れた園庭づくりは、子どもたちの「自分で考え、自分でつくり出す力」を育む、いちばん確かで、いちばん優しい贈りものになるはずです。

From Practice to Philosophy

「By children」という実践は、
どんな思想から生まれたのか。

子ども自身が遊びを見つける「余白」のデザインは、ランドスケープデザイナー・高野文彰氏が生涯をかけて追い求めた「By people」の思想、そして世田谷プレーパークの市民運動にそのルーツがあります。私たちの実践を支える、その思想の系譜をたどってみませんか。

高野文彰氏の思想と「By people」の系譜を読む →
Message from Our Expert

ビオトープ施工管理士・飯沼伸久より

「By children」という言葉を、私たちは単なるスローガンではなく、設計と施工の一つひとつの判断基準としています。既製の遊具をただ配置するのではなく、地形や自然の起伏を活かし、子ども自身が遊びを発見し、創造できる「余白」をどうデザインするか。そして、その園庭づくりのプロセスに、先生方や子どもたち、保護者の方々にどう関わっていただくか。この二つを両立させることが、私たちの仕事だと考えています。園庭は竣工して終わりではなく、そこから育っていく場所です。長く伴走できるパートナーとして、これからも園庭づくりに携わっていきたいと思います。

ビオトープ施工管理士 / グッドデザイン賞・国土交通大臣賞受賞 株式会社アトリエアムニー代表 飯沼伸久