国営・県営公園の生態系復元から学ぶ:生物多様性保全の園庭ビオトープ

For Nursery & Kindergarten Teachers

監修:株式会社アトリエ アムニー代表取締役 飯沼伸久(1級造園施工管理技士・ビオトープ施工管理士 在籍20年以上/2008年創業) 

国営・県営公園を復元した技術で、
園庭に「生きた生態系」を宿す

メダカやヤゴが生息する、生態系がデザインされた園庭ビオトープのイメージ 自生種の植物と微地形によって復元された湿地・水辺のビオトープのイメージ

1993年、日本が「生物多様性条約(CBD)」を批准したその年、私・飯沼伸久はランドスケープの巨匠・高野文彰氏に師事し、国営・県営規模の自然環境復元プロジェクトの最前線に身を置くことになりました。

園庭に置かれる「生きもの」は、観賞用の池やメダカの水槽であってはなりません。地元の蝶や野鳥が立ち寄り、土壌微生物が循環する、本物の「生態系(ビオトープ)」でなければならない——これが、国家プロジェクトの現場で培った私の確信です。

都市の中の小さな園庭であっても、地形と植生を正しく設計すれば、そこに本物の生態系を宿すことができる。

本コラムでは、国営・県営公園での実務経験、20年来のビオトープ施工管理士としての知見、そして「ネイチャーポジティブ」の時代に園庭が果たす役割について、園長先生や保育者の方に向けて解説します。

Chapter 01

1993年・生物多様性条約の批准と、師系からの学び

私が高野ランドスケーププランニングの一員となった1993年は、日本が「生物多様性条約(CBD)」を批准した記念碑的な年でした。それまでの「景観を整える造園」から、「失われた自然環境を科学的に復元するランドスケープ」へと、国や自治体の政策が大きく舵を切った黎明期です。私は、師である高野文彰氏、および当時その右腕であり、現在は高野ランドスケープ代表取締役、さらには一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会(CLA)会長を務める金清典広氏(技術士)という、日本のトップランナーたちの指導のもと、国家・自治体レベルの大規模な環境復元プロジェクトの最前線に身を置くことになりました。

🏞️ 国営・道立十勝川エコロジーパーク

第19回都市公園等コンクール 設計部門 国土交通大臣賞受賞。水脈と動植物の生態系を高度に復元した、国・道による共同プロジェクトです。

💧 新潟県立大潟水と森公園

新潟県上越市。かつて地域の暮らしと結びついていた「潟(ラグーン)」の生態系を緻密に復元し、人と自然が共生する県営公園を計画・創造しました。

🏆 「十勝千年の森構想」への参画と受賞

現在世界最高峰と称されるガーデンへと展開する以前、その根底となる壮大な構想の計画に従事。2000年度ランドスケープコンサルタンツ協会賞(現・CLA賞)奨励賞を受賞しました。

何百ヘクタールという広大な大地において、水はどのように流れ、土はどう豊かになり、植物と鳥や虫たちがどうやって食物連鎖を紡ぐのか。その「本物の自然のメカニズム」を、地形設計と植物生態学のレベルから徹底的に実践し、学びました。

Chapter 03

都市部の園庭に「本物の生態系」を宿す視点

国家・自治体レベルの大規模プロジェクトで培った知見は、そのままの規模では園庭に持ち込めません。しかし、その根底にある「自然のメカニズム」への理解を、園庭というミクロなスケールに正しく落とし込むことで、都市部であっても本物の生態系を機能させることができます。

🦋

POINT 01

「見せる」ではなく「機能させる」

観賞用の池やビオトープ風の装飾ではなく、実際に生きものが循環する仕組みとして機能する設計であるかどうかが、本物とそうでないものを分けます。

🧒

POINT 02

安全性と生態系の両立

子どもたちが日常的に触れる場所だからこそ、専門的な知見に基づき、安全性と崩壊しにくさを両立させた設計が求められます。

🌿

POINT 03

五感で学ぶ「命のつながり」

蝶が来て、虫が育ち、鳥が訪れる。その循環を子どもたちが日々の遊びの中で五感を通じて実感できることが、園庭ビオトープの本質的な価値です。

Conclusion

おわりに——子どもたちに残していきたい「本物の自然」

国営・県営公園という国家規模のプロジェクトで培った自然復元の技術を、園庭という小さな規模に丁寧に落とし込むこと。それは、既製品の遊具や観賞用の池を置くよりも、時間も専門知識も必要とします。それでも、子どもたちが日々の遊びのなかで本物の生態系に触れ、「命のつながり」を五感で学べる環境をつくることは、その園にしかない、かけがえのない財産になります。

子どもたちの育ちへ

蝶や虫、鳥が訪れる本物のビオトープは、命の循環を日常的に感じ取れる、かけがえのない学びの場になります。

その園らしさへ

地域の自生種と微地形によって復元された生態系は、他にはないその園ならではの風景となり、長く愛される園の個性になります。

地域の生物多様性へ

都市部の小さな園庭であっても、地域の蝶や野鳥が立ち寄る場をつくることは、ネイチャーポジティブの時代における地域全体の生物多様性への貢献につながります。

おわりに ── 国家プロジェクトの技術を、園庭という小さな宇宙へ

十勝川エコロジーパークや十勝千年の森構想で培った「本物の自然を復元する技術」を、園庭という子どもたちの日常の場に注ぎ込むこと。それが、20年以上のビオトープ施工管理士としての研鑽を続けてきた私たちの使命だと考えています。

From Practice to Philosophy

園庭ビオトープという実践は、
どんな経験から生まれたのか。

都市部の園庭に本物の生態系を宿す技術は、国営・県営規模のプロジェクトと、師である高野文彰氏らとの協働から生まれました。その思想と実務の系譜、そして「By children」の園庭づくりへの広がりを、あわせてご覧ください。

「By children」の余白設計コラムを読む →
Message from Our Expert

ビオトープ施工管理士・飯沼伸久より

「ビオトープ」という言葉は、今や多くの現場で使われますが、私たちが目指すのは観賞用の水たまりではなく、地域の生態系が実際に機能する「生きた空間」です。国営・県営公園という国家規模のプロジェクトで培った知見を、園庭という小さなスケールに正しく落とし込む。それには、地形設計と植物生態学、両方への深い理解が欠かせません。20年以上のビオトープ施工管理士としての研鑽を活かし、都市部の園庭にも本物の自然を宿すお手伝いをしていきたいと思います。

ビオトープ施工管理士 / グッドデザイン賞・国土交通大臣賞受賞 株式会社アトリエアムニー代表 飯沼伸久