OECDラーニング・コンパス2030とは:エージェンシー・共主体・AARサイクルを徹底解説

For Nursery & Kindergarten Teachers, and Everyone Who Cares About Children's Growth

監修:株式会社アトリエ アムニー代表取締役 飯沼伸久(ビオトープ施工管理士2級・日本ビオトープ管理士会会員 在籍20年以上/2008年創業) 

「地図」から「羅針盤」へ——
OECDラーニング・コンパス2030とは何か

OECDラーニング・コンパス2030の概念図(Learning Compass 2030) 子どもが自ら羅針盤を手に未知の状況を進んでいくイメージ

「ラーニング・コンパス2030」は、OECD(経済協力開発機構)が2019年に公表した教育ビジョンです。予測不可能な時代を生きる子どもたちが、自分自身の力で「ウェルビーイング(幸福)」という目的地に向かって進んでいくために、何を学び、どう育つべきかを図で示した「学びの羅針盤」です。

私・飯沼はビオトープ施工管理士2級として、20年以上にわたり「環境を通した学び」を空間デザインの実務に落とし込んできました。本コラムでは、教育の専門的な理念であるラーニング・コンパス2030の要点を、公式資料に基づいて整理するとともに、実際の園庭づくりの現場でこの理念がどのように空間へ翻訳されうるのかをご紹介します。

大人が用意した「地図」をなぞらせるのではなく、子ども自身が「羅針盤」を手に、自らの道を見出していく。

本コラムでは、ラーニング・コンパス2030が生まれた背景となる「Future of Education and Skills 2030」プロジェクトの概要、コンパスを構成する主要な要素(エージェンシー、共主体、変革をもたらすコンピテンシー、AARサイクル)、そして参照すべき一次資料へのリンクを整理します。

Chapter 01

ラーニング・コンパスが生まれた背景——「Future of Education and Skills 2030」プロジェクト

ラーニング・コンパス2030は、OECDが2015年から進めてきた国際プロジェクト「Future of Education and Skills 2030(教育とスキルの未来2030)」の議論の集大成として生まれました。世界中の政府関係者、研究者、教師、そして生徒自身までもが参加し、「予測不可能な未来を生きる子どもたちに、どのような知識・スキル・態度及び価値が必要か」を数年間かけて議論しました。

🌍 国際的な合意形成プロジェクト

日本を含む世界各国が参加し、政府代表者・研究者・現場の教師・生徒本人が対話を重ねながら策定した、国際的な教育ビジョンです。

🧭 「コンパス」という名の意味

未知の状況の中で生徒自身が進むべき方向を見つけ、舵を取っていくという意味を込めて、評価やカリキュラムの枠組みではなく「コンパス(羅針盤)」と名付けられました。

🇯🇵 日本語仮訳の整備

文部科学省と東京学芸大学、専門家、高校生を含む多様な立場の協力のもと、「OECD ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」として日本語仮訳が公開されています。

プロジェクトの全体像は、OECD公式サイトの特設ページで公開されています。より専門的な立場から書かれた「ポジション・ペーパー」もあわせて、一次資料として参照する価値があります。

Chapter 03

理念を空間に「実装」するという視点

ラーニング・コンパス2030は、教室の中だけの理念ではありません。アトリエアムニーでは、この理念が示す「エージェンシー」や「共主体(コ・エージェンシー)」を、園庭という物理的な空間(ランドスケープ)として実装することを、造園思想の軸のひとつとしています。

🧭

POINT 01

「完成済みの地図」から「羅針盤を育む余白」へ

カタログの既製遊具のように使い方が決まった「地図」ではなく、土手の起伏や大きさの揃わない石、流れる水など、使い方が決まっていない「余白」を園庭に設けます。正解がないからこそ、子どもは自分で遊びを発見し、工夫する力を伸ばしていきます。

🌱

POINT 02

環境との「共主体」を促す自然の循環

雨の日には水たまりができ、季節で泥の硬さが変わるような予測不可能な微地形や、給食の残りが土になり植物が育つパーマカルチャーの仕組みを通じて、子どもが環境に働きかけ、環境もまた子どもに学びを返す相互作用を生み出します。

POINT 03

持続可能なウェルビーイングを育む「時間軸」の設計

耐久性の高い素材を用い、植物が育ち土が豊かになっていくことで「時間が経つほど価値が増していく」設計を行います。完成した日がゴールではなく、子ども・大人・自然が共に時間をかけて関わり続けることで育つ庭を目指します。

Conclusion

まとめ——言葉の理念を、触れられる環境へ

ラーニング・コンパス2030が示す「エージェンシー」や「共主体」は、あくまで言葉による理念です。それを子どもたちが実際に触れ、遊び、体で学べる形にするには、専門的な造園技術と、地形・生態系への深い理解に基づいた「翻訳」の作業が必要になります。

国際的な教育理念の理解

ラーニング・コンパス2030やこども家庭庁が示す「共主体の保育」「環境を通した教育」といった理念を、一次資料に基づいて正しく理解することを大切にしています。

生態系の知見に基づく空間設計

ビオトープ施工管理士としての知見をもとに、微地形や自然の循環を園庭という限られた空間に落とし込み、理念を「体験できる場」に変えていきます。

長く関わり続けられる庭づくり

完成後も子ども・保育者・地域が関わり続けることで育っていく庭を目指し、卒園した子どもたちが帰ってこられる「原風景」となる空間づくりを行っています。

おわりに ── 理念を、子どもたちが実際に触れられる庭へ

これからもアトリエアムニーは、ラーニング・コンパス2030のような国際的な教育ビジョンと、造園・ランドスケープデザインの専門技術を橋渡ししながら、子どもたちの「羅針盤」を育む園庭づくりに取り組んでまいります。

From Concept to Landscape

理念は、園庭でどう
「羅針盤」として機能するのか。

国際的な教育ビジョンが、実際の園庭づくりの現場でどのように「子どもの主体性を引き出す余白」として形になるのか。国営・県営公園の実績をもとにした実践編もあわせてご覧ください。

園庭ビオトープの実践コラムを読む →
Message from Our Expert

ビオトープ施工管理士2級・飯沼伸久より

「ラーニング・コンパス2030」という言葉は、教育の専門家の間では広く知られていますが、造園やエクステリアの現場に届くことはまだ多くありません。しかし、この理念が求める「子ども自身の主体性」や「環境との相互作用」は、まさに私たちが日々の園庭づくりで実践してきたことと重なります。国際的な教育ビジョンという大きな理念を、住宅のエクステリアや園庭という具体的な空間に落とし込んでいくこと。それが、造園の専門家としての私たちの役割だと考えています。

ビオトープ施工管理士2級 / 株式会社アトリエアムニー代表 飯沼伸久