3.11被災地「貞山堀」を歩いて:園庭における「地域循環共生圏」の実装

For Nursery & Kindergarten Teachers

監修:株式会社アトリエ アムニー代表取締役 飯沼伸久(1級造園施工管理技士・ビオトープ施工管理士 在籍20年以上/2008年創業) 

3.11の被災地で学んだ、
「ぐるぐる」という小さな循環の知恵

雨水を貯め、畑の散水に活かす循環システムのイメージ 子どもたちが野菜を育てるエディブルランドスケープのイメージ

2011年、東日本大震災。創業して間もなかったアトリエアムニーは、師である高野文彰氏らと共に、津波によって壊滅的な被害を受けた仙台市若林区、および日本最長の運河である「貞山堀(ていざんぼり)」周辺の被災状況の調査・巡回に同行しました。

生活のすべてが一瞬で「がれき」として片付けられていく光景を目の当たりにした時、私の胸に去来したのは、かつての豊かな暮らしへの強い喪失感と「郷愁」でした。この体験が、「地域資源を愛おしみ、美しく用いる」という、私のその後のランドスケープデザイナーとしての生き方を決定づけました。

人間、自然、社会は、ひとつの大きな循環構造のなかで結ばれて初めて調和する。

本コラムでは、被災地での体験から生まれた「民藝デザイン」への確信、高野氏直伝の「ぐるぐる」という循環の思想、そして園庭を「小さな循環社会の縮図」にするパーマカルチャーの実装について、園長先生や保育者の方に向けて解説します。

Chapter 01

すべてが廃棄される姿から生まれた「民藝デザイン」への確信

津波によって人々の生活が押し流され、それまで大切に使われていた生活の道具や家具、家屋が、すべて一瞬で「がれき(廃棄物)」としてショベルカーで片付けられていく光景。世界的な視野を持つ先達・高野文彰氏と共に、変わり果てた貞山堀を歩いたあの数日間は、私のその後の生き方を決定づけました。「外から新しい消費財や、きらびやかで画一的な既製遊具を買い揃えるデザインは、一瞬で片付けられてしまう廃棄物と同じではないか」——この気づきが、私を「民藝デザイン」としての園庭づくりへと導きました。

📜 学術的エビデンス

当時の調査記録は、高野氏執筆の学術レポート『貞山堀・歴史的資産の被災状況と復興について』(『公園緑地』2011年、日本造園学会・東日本大震災復興支援緊急調査報告)として今も学術的に遺されています。

🪵 残されたものを美しく用いる

その土地に眠る石、処分されるはずだった木、地域の土、人々の記憶。そうした地域資源を愛おしみ、美しく調和させて景観を編み直します。

✨ 経年美化という価値観

年月を経るほどに味わいと価値が増す(経年美化)民藝の「用の美」を、園庭という日々の環境に持ち込むことを決意しました。

災害や時の流れのなかで消え去ってしまう脆いものではなく、そこにあるもの、残されたものを生かし、美しく用いること——それが、被災地での経験から得た、私たちの園庭づくりの原点です。

Chapter 03

園庭を「小さな循環社会の縮図(パーマカルチャー)」にする

私たちは、この「関係性の美しさ」と「自律した『ぐるぐる』の循環」を、子どもたちが毎日五感で触れ合える「園庭」のスケールで具現化しています。雨水、生ごみ、食べもの、そして人と人とのつながり。それぞれがバラバラの要素としてではなく、ひとつの循環構造として機能することが、パーマカルチャー園庭の本質です。

🚰

CYCLE 01

雨水 → 畑・ビオトープへ

屋根から降った雨水を貯め、畑の散水やビオトープの水源に還すことで、限りある水資源を園庭の中で循環させます。

🥕

CYCLE 02

生ごみ → 土 → 野菜へ

給食の生ごみをコンポストで土に戻し、その土で新しい野菜を育てる。子どもたちが命の循環を体で学べる仕組みです。

🤝

CYCLE 03

地域の縁側としての多世代交流

植樹ワークショップや収穫祭を通じて、地域の方々がふらりと立ち寄る自律的なコミュニティを、園庭を核に形成していきます。

Conclusion

おわりに——3.11から学んだ「失われないもの」

3.11のがれきの山から学んだ、「失われないもの(循環の関係性)」と「残されたものを美しく用いる(民藝)」という知恵。それらを園庭という未来のゆりかごに注ぎ込み、子どもたちが生きる力を体で学べる「小さな地球」を、これからも全国の園の先生方と共に創り上げてまいります。

子どもたちの育ちへ

雨水やコンポストの循環を日々の遊びの中で体感することは、子どもたちが「生きる力」を体で学ぶ、かけがえのない機会になります。

その園らしさへ

地域に残された石や木、土を用いた民藝デザインの園庭は、既製品では叶わない、その園ならではの風景となります。

地域とのつながりへ

植樹や収穫を通じた多世代交流は、園を核とした自律的な地域コミュニティを育み、地域循環共生圏の小さなモデルになります。

おわりに ── 「ぐるぐる」という、いちばん確かな循環の知恵

3.11の被災地で学んだ「関係性のなかでこそ、すべてが生かされる」という構造主義的な確信。それを高野氏直伝の「ぐるぐる」として、園庭という子どもたちの日常のなかに実装していくこと。それが、私たちアトリエアムニーの使命だと考えています。

From Practice to Philosophy

「ぐるぐる」という実践は、
どんな経験から生まれたのか。

地域循環共生圏を園庭に実装するこの思想は、3.11の被災地調査と、師である高野文彰氏らとの協働、そして国営・県営公園での自然復元の実務から生まれました。あわせて、私たちの実践を支える他のコラムもご覧ください。

園庭ビオトープの生態系保全コラムを読む →
Message from Our Expert

ランドスケープアーキテクト・飯沼伸久より

3.11の被災地で目にした、すべてが一瞬でがれきになっていく光景は、今も私の設計の根底にあります。外から新しいものを買い揃えるのではなく、そこにあるもの、残されたものを美しく生かすこと。そして、雨水も、生ごみも、人と人とのつながりも、すべてがひとつの循環構造のなかで結ばれること。この「ぐるぐる」の思想を、園庭という子どもたちの日常のスケールに実装していくことが、私たちの仕事だと考えています。

ビオトープ施工管理士 / グッドデザイン賞・国土交通大臣賞受賞 株式会社アトリエアムニー代表 飯沼伸久