執筆:株式会社アトリエ アムニー代表取締役 飯沼伸久(1級造園施工管理技士・ビオトープ施工管理士 在籍/2008年創業)
2026年2月、早稲田奉仕園スコットホールにて開催された高野ランドスケーププランニング設立50周年記念トークイベント「ランドスケープは誰のために」。日本の参加型まちづくりやコミュニティデザインを第一線で牽引されてきた木下勇先生、浅海義治先生、山崎亮先生という豪華な登壇陣、そして象設計集団の樋口裕康氏が寄せられた「公園の自由」という追悼文から、私たちアトリエアムニーはランドスケープの根源的な意義について、改めて深く学ばせていただきました。
巨匠たちが切り拓いてきた「想像/参加/風景」というテーマは、私たちが日頃から模索している自然風庭園や環境デザインのあり方に、明確な光を当ててくれるものでした。
効率がすべてに優先される都市の中で、公園は本来、自然との営みを学び五感を取り戻す場所である。 ― 樋口裕康氏(象設計集団)
本コラムでは、このシンポジウムでの貴重な学びと、そこから得たアトリエアムニーとしてのこれからの指針を記録しておきたいと思います。
木下先生から語られた、1970〜80年代の羽根木公園や三軒茶屋、吉祥寺における「プレーパーク(冒険遊び場)」黎明期の熱気。そして、高野文彰氏の原体験として語られた1968年バークレーでの「ピープルズパーク(People's Park)」事件。これらはすべて、管理された空間ではなく、住民や子どもたちが自らの手で「居場所」と「自由」を勝ち取っていく圧倒的な当事者意識の歴史でした。
高野文彰氏の原体験となった、1968年バークレーでの「People's Park」事件。管理者から住民の手へと、空間の主導権が移った象徴的な出来事でした。
木下勇先生が語る、1970〜80年代の羽根木公園・三軒茶屋・吉祥寺における冒険遊び場の熱気。子どもの遊び場は、大人が与えるものではなく育てるものでした。
「公園は誰のものか」という問いに、先人たちは実践をもって向き合いました。それは、住民や子どもたちの圧倒的な当事者意識の歴史でもあります。
私たちアトリエアムニーも、「地域の縁側」プロジェクトや里山をテーマにした幼稚園・コミュニティファームの設計において、使う人々が主体的に関われる余白づくりに挑戦しています。しかし、先人たちが直面した命懸けの問いと実践の重みを知るにつけ、私たちが目指す「完成させすぎず、あいまいに変化し続ける風景」の奥深さを痛感し、さらに真摯に現場に向き合わねばならないと背筋が伸びる思いでした。
💡 関連コラム
高野文彰氏が生涯をかけて追い求めた「against, for, with, by」という思想と、日本における冒険遊び場(プレーパーク)のパイオニアとしての足跡については、こちらのコラムで詳しく取り上げています。
高野文彰氏とプレーパークの思想について詳しく読む →浅海先生が語られ高野文彰氏の背中。
CULTURE 01
高野氏が北海道の地で馬を飼い、自然の懐深くで実践された「森の文化」。都市の効率性とは異なる時間の流れが、そこにはありました。
CULTURE 02
アトリエアムニーが福祉施設やリハビリテーションの現場で庭園療法(ガーデンセラピー)やユニバーサルデザインを提案する際も、この「五感の回復」は最大のテーマです。
CULTURE 03
自然素材の確かな手触りや、四季の移ろいを感じられる本物の空間づくりを通じて、少しでもその精神を受け継いでいきたいと強く感じました。
高野氏が実践された「森の文化」への深い傾倒に比べれば、私たちの歩みはまだ始まったばかりです。だからこそ、一つひとつの現場で、その精神を少しずつ受け継いでいきたいと考えています。
シンポジウムのなかで山崎先生からは、現在進行中のプロジェクトとして「(仮称)仙台市音楽ホール・中心部震災メモリアル拠点複合施設」における市民ワークショップのプロセスが共有されました。私たちの活動拠点でもある仙台の地で、第一線の専門家がいかにして市民との対話を紡ぎ、歴史や記憶を未来の公共空間へと編み上げているのか。そのリアルなプロセスを伺えたことは、地域に根ざして活動する私たちにとって、何よりの道標となりました。
仙台市音楽ホール・震災メモリアル拠点複合施設の市民ワークショップに見る、歴史や記憶を未来の公共空間へと編み上げるプロセス。
先人たちが切り拓いた「参加と自由」の哲学を、一つひとつの現場(Playground)で実践していくこと。
美しい風景を地域社会へ還元していくために、私たちアトリエアムニーも学びの歩みを止めることなく歩み続けます。
都市計画家、千葉大学名誉教授、大妻女子大学社会情報学部教授。80年代初頭よりワークショップによる住民主体のまちづくりを推進し、プレーパーク(冒険遊び場)などの子ども環境や地域マネジメントの研究・実践に尽力。
コミュニティデザイナー、株式会社studio-L代表、関西学院大学建築学部教授。建築・ランドスケープ設計を経て、「人がつながる仕組み」をデザインするコミュニティデザインを提唱。全国各地の公共空間デザインや総合計画づくりに携わる。
まちづくりコンサルタント。北海道大学卒業後、高野ランドスケーププランニングに在籍。カリフォルニア大学バークレー校大学院修了後、「世田谷まちづくりセンター」の創設などに関わり、日本における参加型デザイン・中間支援組織の体制構築を長年にわたり牽引(著書に『参加のデザインの道具箱』など)。
「公園は誰のものか」という問い、そして高野文彰氏が生涯を賭けた「By people」の思想は、私たちの保育園・幼稚園の園庭づくりの現場でも「By children」という一語に置き換えて実践しています。その具体的な取り組みをご紹介します。
「By children」の園庭づくりの実践を読む →雲の上の存在とも言える先生方の思想や情熱に直接触れることができた、忘れられない夜でした。「想像」「参加」「風景」という3つのテーマは、私たちが日々の設計・施工で向き合っている課題そのものです。完成させすぎず、あいまいに変化し続ける風景をどうデザインするか。使う人々が主体的に関われる余白を、専門家としてどれだけ質高くつくれるか。この学びを胸に、これからも一つひとつの現場(Playground)で、先人たちが切り拓いた「参加と自由」の哲学を実践し、美しい風景を地域社会へ還元していきたいと思います。
ビオトープ施工管理士 / グッドデザイン賞・国土交通大臣賞受賞 株式会社アトリエアムニー代表 飯沼伸久